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ぶどう石

定点観測記録

伝統芸能を継承する人々―文楽研修イベントに参加してきた―

観ていたニュースで、アナウンサーが「入口」というワードを発したので、思わず「出口田口…」と口走ってしまい、一人で勝手にへこんだ4月1日の朝であった。田口くんやKAT-TUNについて思うところはたくさんあるのだが、どうにもうまくまとめられそうにないので、これくらいにしておく。書き始めたら、長ったらしいポエムになりそうなので。

 

さて、今回の記事はまったく関係のない内容です。

 

頼むから、一度観てくれ…!

私が初めて文楽を鑑賞したときに感じたことである。

文楽とは何ぞや、という方も多いと思うので、簡単に説明をすると

人形浄瑠璃文楽は、義太夫の語りと三味線、人形遣いの三業が心をあわせて一つの舞台を作り上げる総合芸術です。江戸時代初期に大坂で生まれ、いつの時代も変わらぬ人間の情を描いてきました。(「文楽研修のご案内」より抜粋)

文楽人形浄瑠璃と考えてもらっていい。

私が文楽に興味を持ったのは、橋下元大阪市長の問題で文楽がクローズアップされたときである。失礼ながら、それまでは名前こそ聞いたことがあったものの、詳しいことはまったく知らなかった。たまたま、その当時に勤めていた職場の方が文楽好きで、いろいろ教えてくださったので、いつか観に行ってみたいと思った。しかし、結局観に行かないまま2年が過ぎてしまった。ところが、別の形で文楽と再会することになる。三浦しをんさんの小説「仏果を得ず」を読んで、「おもしろそう!これは観ないと!」と衝撃を受けたのである。また、私がもっとも愛する作家である津村記久子さんも鑑賞されているそうで、好きな人たちが好きなのだからおもしろいに違いないと確信し、昨年ついに文楽デビューを果たした。

 

おもしろかった。今まで知らなかったことを悔やむくらいに。そして、もっと勉強したいと思った。文楽はほかの古典芸能とも結びつきがあるので*1、落語や狂言、歌舞伎についても知りたくなった。今年の目標の一つに、「古典芸能について学ぶ」というものを掲げている。わが国で長く受け継がれるエンターテインメントを知らずにいるのはもったいない。

文楽そのものについては後日改めて書くとして、今回は、先日参加してきた「文楽研修イベント」のレポを忘れないうちに書こうと思う。文楽には技芸員を養成する研修事業が存在し、主に文楽関係の家系出身でない人たちが2年の研修を受けて技芸員になる。現在活躍する技芸員の半数以上が研修修了者だそうだ。このイベントの趣旨は、研修について紹介し、研修生を募ることである。 

 

①研修の様子を映像で観る

 まず、研修で座学の講義を担当している大学の先生の解説付きで、研修の映像を観た。研修生の応募資格は、中学卒業以上で原則として23歳以下の男子。しかし、来場者は私も含め、資格を満たさないであろう人ばかりであった。大学の先生が、「近所のお兄ちゃんに声をかけてみてください!」と言ったのには笑った。残念ながら、私にはそんなに若い男の子の知り合いはいないので、せめてもと、ブログを書いて宣伝する次第である。

 研修生になったら、全員が太夫、三味線、人形の基本を学ぶ。その後、専攻を決め、専門分野に分かれていく。研修科目には、三業の基礎のほかに、教養、作法、日本舞踊などがある。芸に必要と思われるあらゆることをたたきこまれる点が、宝塚音楽学校と似ていると思った。映像を観た限りでは、講師はさほど厳しそうではなかったが、実際のところはわからない。研修生の中には途中でやめていく人もいるようだ。当たり前なのだろうが、ずっと着物で研修を受けている姿に新鮮に感動した。リハ風景や舞台裏大好き人間としては、ぐっとくる貴重な映像だった。

 

②太夫、三味線、人形の三業によるトークショー

 次に、現在活躍されている研修修了者の太夫、三味線、人形のお三方によるトークショーが始まった。驚いたのは、お三方とも話が大変お上手だったことである。ユーモアを交えた巧みな話術は、噺家さんかと思うほど。芸一筋に生きる人たちなので、真面目で口下手なイメージがあったのだが、鑑賞教室などで講師をされることもあるため、人前で話すことに慣れておられるようだ。話し上手なのは、全員が太夫の勉強をされていることも関係しているのかもしれないと思った。

 研修生になったきっかけ、研修での思い出を話されたのだが、興味深かったのは、何といっても前者である。文楽にゆかりのない人が、なぜ文楽の道へ進んだのか。ずっと知りたかった。そのいきさつは十人十色。今回出演されていた太夫さんは大学の三曲研究部*2に入って文楽の存在を知って、三味線さんは高校生の時にNHKの番組で聞いた文楽の太棹三味線*3の音色に惹かれて、人形さんはサラリーマンをやめたいと思っていたときに、ラジオで研修生を募集していることを知って。何気ないことがきっかけで、その後の人生が決まるのだ。おもしろい話だったので、もう一度聞きたいほど。

 

③研修生の紹介

 今まさに研修中である研修生3名が紹介された。最初に研修映像を観たときから、彼らは今日は出てくれないのだろうかと気になっていたので、とてもうれしかった。一人ひとり、名前と出身地と専攻を紹介してくれた。年若い彼ら*4がどういったいきさつで文楽に興味を持ち、研修生になるにいたったのかが気になる。まだ初々しくて、かわいらしかった。デビュー前の研修生やJr.に弱いタイプの人間なので、「頑張れー」とエールを送りたくなった。研修を終えても、プロとしての修業が待ち受けているので、すぐに舞台デビューできるわけではないが、彼らが初舞台を踏む日を心待ちにしている。できれば観に行きたい。

 

④三業による実演

  太夫の実演では、参加者も一緒に本読みをした。イントネーションが独特なので楽しかった。文楽は大阪発祥の文化なので、基本的に関西なまりである。今回の大夫さんは東京出身であるため、関西なまりの習得に苦労されたそうだ。本読みの題材の中に「これ」という言葉が2回出てきたのだが、一つは「コレ」と呼びかける言葉で、もう一つは指示語の「これ」であり、同音異義語でイントネーションが変わることを学んだ。また、登場人物のキャラクターによって、抑揚の強弱や声色が異なり、一人で何役も演じ分ける大変さを感じた。

 三味線の実演では、腕固めとメリヤスという三味線の手を教わった。腕固めはトレーニングの一つで、長いときは数十分延々と続ける。数十分も手首を動かし続ける、非常につらいトレーニングだ。若手で有望な後輩技芸員が実演してくださったのだが、三味線さんの後輩くんのいじり方が絶妙だった。師匠と弟子、先輩と後輩、兄弟子と弟弟子など、演者の関係性を知るのもおもしろそうである。また、メリヤスとは短い手を繰り返し演奏するもの。名前の由来は、曲が劇に合わせてメリヤスのように伸び縮みすることから来ているそうだ。メリヤスは6人で演奏されるのが通常であるため、三味線さんと後輩くん二人で演奏してくださった。息の合った演奏は迫力があった。明るい曲と暗い曲とでは弦の張り方が違うそうで、聴き比べると、確かに音色が変わったので驚いた。

 人形の実演では、研修生による実演を人形さんが指導するといったスタイルがとられた。本来は三人で一体の人形を操るが、見やすくするために主遣いと足遣い*5のみで実演された。研修では、足遣いから習うそうで、研修生は足遣いを担当。少しの動きの違いで、自然に見えたり不自然に見えたりするので、細かい技術が必要だと思った。しかも、それを3人で合わせないといけないので難しい。最後に来場者2名が体験されたのだが、当たり前ではあるが、素人とプロの差は歴然であった。私がやっても、不自然な動きになるにちがいない。

 

まとめ

 とても楽しいイベントだったので、DVD化してほしいくらいである。しかも、書き忘れていたが、参加費は無料である。無料でこんなに楽しませてもらって申し訳ない。また書くが、文楽はお財布にやさしい芸能である。もっと取ってくれてもいいよと思う。

 耳寄りな情報がいっぱいでメモが追いつかなかった。周りにメモを取っている人がほとんどいなかったので、メモするのがはずかしく、控えめにしていたこともあり、満足にメモできていない。遠慮せずにメモしまくればよかった。

 今回の来場者も、普段の公演の観客も、ほとんどが年配の方である。今のところ、私が見かけた若者は、ゼミで観に来たとおぼしき大学生のグループくらいである*6。学生時代に修学旅行や芸術鑑賞で観たことがある人はけっこういらっしゃるかもしれないが、きっかけがなければ、なかなか触れることがない。逆に言えば、きっかけさえあれば、ハマる人はけっこういると思う。なので、とりあえず一度でいいから観てほしい。百聞は一見に如かずである。敷居が高いと感じるかもしれないが、そんなことはない。手ぶらで一人でふらっと行ける。ぜひ、若い人にこそ観てほしい。新しい世界に触れられる。

 もし、お近くにやりたいことがない、好きなものがないと言っている若い男子がいましたら、こんな道もあるよと吹き込んでいただければ幸いです。

 

bunraku.or.jp

 

仏果を得ず (双葉文庫)

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あやつられ文楽鑑賞 (双葉文庫)

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*1:同じ演目をやることがある

*2:和楽器のサークル

*3:三味線には細棹、中棹、太棹の三種類があり、太棹が最も重く太い

*4:おそらく全員10代

*5:あと、左遣いがある

*6:一部が上演中に飲食し始め、劇場のお姉さんに注意されていた。マナーくらい勉強してから来い。