ぶどう石

定点観測記録

震災を経験した街で暮らして

よほどのことがない限り、ジャニーズ現場にはもう行かないだろうと思っていたのだが、そのよほどのことが起こってしまったので行ってきた。

伊野尾くんの主演舞台「カラフト伯父さん」である。

伊野尾くんの記念すべき初主演舞台ということで、これは観に行かざるを得ないだろうというわけで観てきた。一言で言うと、とてもよい舞台だった。観るべき舞台だった。どこ目線だよという感じだが、いのちゃんいい仕事をもらったし、いい仕事をしたなあと思った。

感想を書きたいところだが長くなりそうだし、すでにたくさんの方が素敵なレポを書いてくださっているので、私はひとつのことに絞って書こうと思う。

 

カラフト伯父さんの舞台となった神戸で、現在私は暮らしている。

阪神淡路大震災のときは地元も揺れたそうだが、幼かったので正直あまり記憶はない。しかし、震災が起こり、地下鉄サリン事件が起こり、世間が慌ただしかったのはなんとなく覚えている。しかも、震災の2日後に祖父が亡くなったので、寒くてつらい冬だった。

それから時は流れ、縁あって神戸に住むようになった。ある年、震災の追悼行事に参加した。それは山上で行われたのだが、山から見下ろす夜の神戸の街はとても美しく、この街がかつて壊滅したとは信じられなかった。この明かりがすべて消えたのかと思うとぞっとした。

神戸に来てから、震災の話をいろいろな人から聞いた。友人を亡くした人、同僚を亡くした人。同世代の友人から、避難所生活を送ったと聞かされたときは驚いた。そうだ、ここで暮らす人たちは大変な経験をしてきたのだ。自分が経験したことのない大変な経験を。そのとき初めて実感した。

まるで完全に復興を遂げたかのように見える神戸。しかし、復興住宅の問題や思うように再開発が進んでいないなど、問題は山積している。以前の勤め先が再開発地域にあったのだが、放置されたままの広い空き地がいくつもあった。まだ震災は終わっていないのだと感じた。現在その地域ではなんとか人を呼び込もうと、アニメストリートと銘打って、街を活性化するプロジェクトを行っているらしい。未来につながる一歩となることを願う。

伊野尾くんも言っていたが、実際に経験した人の気持ちは経験していない私たちにはわからない。すべてを理解することはできない。見えないだけで、一生癒えない傷を抱えている人たちがたくさんいるのだろう。阪神淡路大震災東日本大震災はもちろん、その他の災害や事故、事件などで深い傷を負った人はたくさんいる。また、種類は違えど、人知れず苦しみを背負っている人はたくさんいる。見えないところも想像しなければ。実感はできないかもしれないが、想像はできる。想像しようとすることが大事なのだろう。わからないからと切り捨てるのではなく、少しでもわかろうと努力することが大事なのだろう。人間は考えることができる。考えることをやめてはならないと、舞台を見て強く思った。